月と霧に包まれた海で、壱岐の釣り人たちが島で弱っていた百合若を船へ助け上げる幻想的な物語絵。

物語 ・古典原典

壱岐の釣り人と百合若大臣

イキノツリビトトユリワカダイジン

幸若舞曲『百合草若大臣』。上田万年校『舞の本』1926年刊 長崎県

裏切られて島に残された百合若を、壱岐の浦の釣り人が救います。上田万年校『舞の本』「百合草若大臣」の筋を紹介します。

代表的な物語

物語

観音の申し子として生まれた百合若大臣ゆりわかだいじんは、成長すると武勇を示し、大納言の姫を妻に迎えました。蒙古の軍が攻めてきたとき、百合若は討伐へ向かい、戦いに勝って帰途につきます。

百合若が玄海の島で休んでいると、家臣の別武兄弟が彼の地位を奪おうとたくらみます。兄は殺そうとしましたが、弟は主君の恩を忘れてはならないと反対しました。それでも兄が考えを変えないため、弟は島に置き去りにすることを提案します。兄弟は百合若を残して船を出し、帰国すると彼が戦死したと偽りました。

妻が百合若の鷹・緑丸を放すと、緑丸は飯をくわえて島へ飛び、百合若のもとに降ります。百合若は血で木の葉に歌を書き、それを鷹に託しました。戻った緑丸から歌を受け取った妻は、夫が生きていると知ります。今度は硯と紙筆、手紙を緑丸に託しましたが、荷の重さに疲れた鷹は海へ落ちて死んでしまいました。百合若は島の岩間に流れ着いた緑丸の亡骸を見つけ、悲しみます。

島に残された百合若は、三年を過ごすうちに姿が変わりました。ある日、壱岐いきの浦から沖へ出た釣り人の船が南風に流され、島へたどり着きます。釣り人たちは異様な姿の百合若を見て逃げましたが、涙を流す彼に声をかけました。百合若は自分を取り残された船夫だと偽り、日本へ連れ帰ってほしいと頼みます。釣り人たちは彼を船に乗せました。百合若が神仏へ祈ると順風が起き、三日で筑紫の博多に着いたといいます。

帰国した百合若は別武兄弟のもとで使われながら、正体を明かす機会を待ちます。正月の射礼で弓を引くことになると、渡された弓を折り、ついに鉄の弓を手にしました。百合若が弓を引いて名乗ると、家臣たちは彼に従い、兄弟の裏切りが明らかになります。兄は処刑されましたが、弟は島で兄の殺害案に反対したことを認められ、命を助けられて壱岐へ流されました。

百合若は妻と再会し、命を救った壱岐の釣り人を呼び寄せます。そして壱岐と対馬つしまの両国を釣り人に与え、妻とともに都へ戻ったといいます。

概要

この記事は、上田万年校『舞の本』(1926年)の「百合草若大臣」を底本にした独自再話です。長崎県との接点は、壱岐の浦から出た釣り人が百合若を救う挿話にあります。島の舞台全体を長崎県へ同定するものではありません。釣り人への壱岐・対馬の褒賞も、この一曲で語られる出来事として紹介します。

現代語解説

『百合草若大臣』は幸若舞曲の一曲です。この記事では上田万年校『舞の本』に載る一つの版の筋を紹介し、そこで語られる戦争、島からの生還、釣り人への褒賞を史実とは扱いません。壱岐で伝わる他の百合若の話と筋を混ぜず、弟が助命される結末も採用底本に従っています。家臣の姓はこの底本の「別武」表記に合わせました。

登場人物・登場する存在の紹介

百合若大臣ゆりわかだいじんは、採用した幸若舞曲で、戦いからの帰途に家臣に島へ置き去りにされる主人公です。帰国後に正体を明かし、地位と妻を取り戻します。

別武兄弟は百合若の家臣です。兄が主君の地位を奪おうとし、弟は殺害に反対しますが、島へ置き去りにする案を出します。兄弟の行動や結末は、この記事の底本に沿って紹介しています。

百合若の妻は、夫の鷹・緑丸みどりまるを放ち、島に残された夫と消息をやりとりする人物です。緑丸は食べ物や歌を運び、夫婦をつなぐ役割を担います。壱岐の釣り人は、島の百合若を見つけ、船で帰国を助ける人物です。

深く知る

出典を確かめる

本文中の説明ごとに、根拠となる資料と該当箇所を示します。

伝承

出陣と帰路

百合若は蒙古の軍を討伐して勝ち、帰途に玄海の島で休息する。
  1. 146–150コマ、出自・出陣から帰途『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

伝承

島への置き去り

別武兄弟は百合若を島に残して帰国し、彼が戦死したと偽って伝える。
  1. 150–152コマ、島での置き去りと兄弟の虚報『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

伝承

緑丸と妻

百合若の鷹・緑丸は島と妻のもとを行き来し、妻は百合若の生存を知る。紙筆などを託された再訪の途中で緑丸は死に、百合若は島で亡骸を見つける。
  1. 154–155コマ(印刷頁260–263)、妻と緑丸『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

伝承

壱岐の釣り人による救助

壱岐の浦の釣り人たちは島へ流れ着き、百合若を船に乗せて連れ帰る。百合若の祈りによって順風が起き、三日で博多に着いたと語られる。
  1. 156–157コマ(印刷頁264–267)、釣り人の救助から博多帰着まで『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

伝承

正体の発覚と決着

帰国後、百合若は正月の射礼で弓の腕を示して名乗り、別武兄弟の裏切りが明らかになる。兄は処刑されるが、弟は島での言葉を認められて命を助けられ、壱岐へ流される。
  1. 正体発覚、印刷頁270–271(159コマ)『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

伝承

妻との再会と褒賞

百合若は妻と再会し、命を救った壱岐の釣り人に壱岐・対馬を褒賞として与え、妻と都へ戻ったと語られる。
  1. 159–160コマ(印刷頁270–273)、曲の終幕『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

概要

登場人物・登場する存在の紹介

百合若大臣ゆりわかだいじんは、採用した幸若舞曲で、戦いからの帰途に家臣に島へ置き去りにされる主人公です。帰国後に正体を明かし、地位と妻を取り戻します。

別武兄弟は百合若の家臣です。兄が主君の地位を奪おうとし、弟は殺害に反対しますが、島へ置き去りにする案を出します。兄弟の行動や結末は、この記事の底本に沿って紹介しています。

百合若の妻は、夫の鷹・緑丸みどりまるを放ち、島に残された夫と消息をやりとりする人物です。緑丸は食べ物や歌を運び、夫婦をつなぐ役割を担います。壱岐の釣り人は、島の百合若を見つけ、船で帰国を助ける人物です。
  1. 146–150コマ、出自・出陣から帰途/150–152コマ、島での置き去りと兄弟の虚報/154–155コマ(印刷頁260–263)、妻と緑丸/156–157コマ(印刷頁264–267)、釣り人の救助から博多帰着まで/正体発覚、印刷頁270–271(159コマ)/159–160コマ(印刷頁270–273)、曲の終幕『舞の本』所収「百合草若大臣」全文掲載可/著作権保護期間満了資料・NDL Next Digital Library(PDM)

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